「ちゃんと説明したはずなのに、なぜか伝わっていない」
マネジメントを任されてから、何度もそんな場面に直面しました。
指示内容は具体的に伝えたつもりでしたし、資料も用意し、質問の時間も設けていました。
それでも、上がってくるアウトプットは、こちらの想定とはズレたものばかり。
「どこで食い違ったのか分からない」――そんな違和感が、少しずつ積み重なっていきました。
当時の私は、「伝え方が悪かったのか」「もっと丁寧に説明すべきだったのか」と、自分なりに原因を探していました。
けれど今振り返ると、問題は“説明の量”や“話し方”ではなかったと分かります。
この記事では、指示したのに伝わらなかった実体験をもとに、
なぜ伝達がズレてしまったのか、そしてそこから何を学んだのかを整理していきます。
同じように「ちゃんとやっているつもりなのに、うまくいかない」と感じている方のヒントになれば幸いです。
指示したのに、思っていた結果にならなかった
マネジメントを任されてしばらく経った頃、
「今回はきちんと指示できたはずだ」と思える場面がありました。
やってほしい作業の内容、期限、注意点。
必要だと思ったことは一通り言葉にし、口頭だけでなくチャットにも残しました。
過去の事例も共有し、「このレベル感でお願いします」と具体的に伝えたつもりでした。
それでも、出来上がってきた成果物を見た瞬間、
頭の中にあったのは「……そうじゃない」という感覚でした。
間違っているわけではありません。
手を抜いている様子もない。
指示を無視したようにも見えませんでした。
ただ、こちらが想定していたゴールとは、明らかに違う方向に仕上がっていたのです。
修正点を指摘しながら、「最初に言った通りでいいんだよ」と伝える。
相手は素直にうなずき、「分かりました」と返してくれる。
けれど次に上がってくるものも、またどこかズレている。
そのやり取りを何度か繰り返すうちに、
「なぜ、ここまで伝えているのに噛み合わないのか」という疑問が強くなっていきました。
説明は足りているはず。
相手のスキルが極端に低いわけでもない。
それなのに結果だけが、どうしても思った形にならない。
この時点ではまだ、
「もっと細かく指示しなければならないのか」
「自分の伝え方に問題があるのか」
そんな方向でしか、原因を考えられていませんでした。
けれど今振り返ると、この違和感こそが、
マネジメントにおける最初の重要なサインだったのだと思います。
当時の自分は「ちゃんと伝えたつもり」だった
正直に言えば、当時の自分は「指示は十分に出している」と思っていました。
むしろ、かなり丁寧な方ではないかとさえ感じていたくらいです。
やってほしい作業内容は具体的に説明し、
期限や優先度も明確に伝えました。
注意点や過去に起きた失敗例も共有し、「同じミスはしなくていいように」と先回りしたつもりでした。
その場で相手の反応も確認しています。
「ここまでで分からない点はある?」と聞き、
「大丈夫です」「分かりました」という返答ももらっていました。
だからこそ、結果がズレたときに強い違和感を覚えたのだと思います。
自分の中では、伝えるべきことはすべて伝えたという感覚があったからです。
また、「これはさすがに言わなくても分かるだろう」と思っていた部分もありました。
これまでのやり取りや、相手の経験年数を考えれば、
自分と同じような前提で動いてくれるはずだ、と無意識に判断していたのだと思います。
指示を出す側として、
「ここまで説明して伝わらないなら、もうこちらの責任ではないのではないか」
そんな気持ちが、心のどこかにありました。
今思えば、この感覚こそが一番の落とし穴でした。
“ちゃんと伝えたつもり”という感覚が、
それ以上深く考えることを止めてしまっていたのです。
相手がどう受け取ったのか、
どんなイメージで作業を進めているのか。
そこまで踏み込んで確認しようとはしていませんでした。
当時の自分は、
「伝えたかどうか」ばかりを見ていて、
「伝わったかどうか」を見ようとしていなかったのだと思います。
それでも伝わらなかった現実
「次は大丈夫だろう」
そう思って出した修正指示のあとも、状況は大きく変わりませんでした。
修正点は具体的に伝えましたし、
「ここをこう直してほしい」という形で、できるだけ分かりやすく示したつもりです。
相手もその都度「分かりました」と返してくれる。
会話としては、何ひとつ問題がないように見えていました。
それでも、上がってくる成果物は、また別の方向にズレている。
前回とは違う部分で、こちらの意図が反映されていない。
修正すればするほど、「どこが噛み合っていないのか」が分からなくなっていきました。
次第に、指示は増え、説明も長くなっていきます。
「念のため」「誤解がないように」と思って付け足した言葉が、
逆に指示全体を複雑にしてしまっている感覚もありました。
やり取りの回数が増えるにつれて、
相手の反応にも少しずつ変化が見え始めます。
質問が減り、返事は短くなり、
「分かりました」という言葉が、どこか事務的に聞こえるようになっていきました。
こちらもまた、「なぜ伝わらないのか」を考える余裕を失い、
目の前の修正を終わらせることに意識が向いていました。
この頃には、
「伝えた・伝えていない」という話ではない、
もっと根本的なズレがあるのではないか、という感覚が芽生え始めていました。
ただ、その正体が何なのかは、まだ分かっていません。
分からないまま、指示と修正を繰り返し、
気づけば、お互いに少しずつ疲弊していく状況ができあがっていました。
今振り返ると、この時点ですでに、
**「伝達の問題」ではなく「関係性や前提の問題」**に入り込んでいたのだと思います。
今振り返って分かる、当時の勘違い
あの頃の自分は、
「伝えたのに伝わらない」という現象を、
どこか“技術的な問題”として捉えていました。
話し方が悪かったのか。
説明が足りなかったのか。
もっと分かりやすい言葉を選ぶべきだったのか。
そうやって、「伝え方」を改善しようとばかり考えていたのです。
けれど今振り返ると、そもそもの前提が間違っていました。
当時の自分は、説明した=伝達したと思い込んでいたのです。
指示を出した時点で、
相手の頭の中にも、自分と同じゴールイメージが浮かんでいる。
そんな無意識の期待を、当たり前のように置いていました。
また、「ここまでは言わなくても分かるだろう」という判断も、
ほぼすべてが自分基準でした。
自分の経験値、自分の視点、自分の仕事の進め方。
それを相手も共有している前提で話していたのだと思います。
もう一つの勘違いは、
「分かりました」という返答を、理解の証だと受け取っていたことです。
相手が本当に理解しているのか、
それとも、とりあえず話を終わらせるための返事なのか。
そこを確かめることなく、次の工程に進んでいました。
当時の自分は、
「伝える側の責任は、伝えた時点で終わる」
そんな意識を、どこかで持っていたのかもしれません。
けれど実際には、
伝えた内容がどう解釈され、どう行動に落とし込まれているのか。
そこまで確認して初めて、指示は“成立する”ものだったのです。
今なら分かります。
あのとき足りなかったのは、
説明力でも、指示の細かさでもありませんでした。
相手の立場で考える視点と、理解を確かめる姿勢。
それが欠けていたことこそが、当時の一番の勘違いだったのだと思います。
本当の原因は「伝え方」ではなかった
何度もやり取りを重ね、ようやく気づいたことがあります。
指示が伝わらなかった原因は、話し方や説明の上手さではありませんでした。
当時の自分は、「どう伝えるか」ばかりに意識が向いていました。
言葉を選び、順序を考え、細かく補足を入れる。
けれど、どれだけ工夫しても状況は大きく変わらなかったのです。
問題だったのは、伝える内容の前提が揃っていなかったことでした。
こちらは、完成形のイメージや判断基準を頭の中に持ったまま話しています。
一方で、相手はその前提を知らないまま、指示された作業だけを受け取っている。
同じ言葉を使っていても、見ている景色が違えば、行動も当然変わってきます。
また、目的と手段が混ざったまま指示を出していたことも、大きな要因でした。
「なぜこの作業が必要なのか」
「どこまでやれば十分なのか」
そうした背景を共有しないまま、作業内容だけを伝えていたのです。
その結果、相手は
「言われたことを、言われた通りにやる」
という動き方になっていました。
それは決して怠慢ではありません。
むしろ、指示された範囲で最善を尽くそうとした結果だったのだと思います。
さらに言えば、役割や責任の境界も曖昧でした。
どこまで自分で判断してよいのか。
どこから先は確認が必要なのか。
そこがはっきりしないまま仕事を任せていたことで、ズレは広がっていきました。
今ならはっきり言えます。
伝え方をどれだけ磨いても、
前提・目的・ゴールが共有されていなければ、指示は伝わらない。
あのとき必要だったのは、
話し方の工夫ではなく、
「同じ土台に立つための時間」だったのだと思います。
伝わらなかったのは、相手のせいではない
正直に言えば、当時の自分の中には、
「ここまで説明しているのに理解してくれないのは、相手の問題ではないか」
そんな気持ちが、少なからずありました。
表には出していませんでしたが、
「もう少し考えて動いてほしい」
「これくらい察してくれてもいいのではないか」
そう思っていたのも事実です。
けれど今振り返ると、その考え方自体がズレていました。
相手は、与えられた情報の中で、
できる限り正解を出そうとしていただけだったのです。
こちらが共有していない前提や、
頭の中にしかない判断基準を、読み取れるはずがありません。
「察してほしい」という期待は、
指示を出す側の都合にすぎませんでした。
また、相手の理解度や経験値を、
自分の感覚で勝手に測っていたことにも気づきました。
「これくらいは分かるだろう」という判断は、
相手を信頼しているつもりで、実は確認を怠っていただけだったのだと思います。
もし立場が逆だったらどうだったでしょうか。
目的もゴールも曖昧なまま作業を任され、
あとから「違う」とだけ言われ続ける。
それは、誰にとってもやりづらい状況です。
伝わらなかったのは、
相手の理解力が足りなかったからでも、
やる気がなかったからでもありません。
伝える側が、相手の立場で考えきれていなかった。
ただ、それだけのことだったのだと思います。
この事実を受け入れるのは、簡単ではありませんでした。
けれど、ここに気づいてから、
指示の出し方や向き合い方は、少しずつ変わっていきました。
失敗してから変えた、指示の出し方
指示が伝わらなかった原因が、
話し方ではなく「前提のズレ」にあると気づいてから、
自分の指示の出し方を少しずつ見直すようになりました。
大きく変えたのは、指示を出す前の考え方です。
まず、いきなり作業内容を伝えるのをやめました。
最初に話すようにしたのは、
「なぜこの作業が必要なのか」「何を目指しているのか」という背景です。
目的が共有されていない状態では、
どれだけ具体的な指示を出しても、
相手は“作業”としてしか受け取れません。
だからこそ、ゴールの意図から話すようにしました。
次に意識したのは、完成形のイメージを言葉にすることです。
自分の頭の中にある「普通」や「これくらい」を、
そのままにしないようにしました。
可能なときは、
「この資料を見た人が、こう判断できる状態にしたい」
「ここまで分かればOKと考えている」
といった形で、判断基準を明確に伝えるようにしました。
また、「分かったかどうか」の確認方法も変えました。
以前のように「分かりましたか?」と聞くのではなく、
「どういう理解で進めようと思っている?」と聞くようにしたのです。
相手の言葉で説明してもらうことで、
どこが伝わっていて、どこがズレているのかが見えるようになりました。
さらに、判断してよい範囲と、確認が必要な範囲をあらかじめ共有しました。
「ここまでは任せる」「ここから先は一度相談してほしい」
そう線を引くだけで、無駄なズレや手戻りは減っていきました。
すべてを一度に完璧に変えられたわけではありません。
それでも、指示のたびに
「これは本当に相手にとって分かる前提だろうか」
と立ち止まるようになったことが、大きな変化だったと思います。
伝えることは、
一方通行では終わらせない。
そう意識するようになってから、
少しずつですが、仕事の噛み合い方は変わっていきました。
それでも完璧に伝わることはない
指示の出し方を見直し、
前提や目的を意識して共有するようになってから、
仕事のズレは確かに減りました。
けれど、それでもなお、
「思っていた通りに伝わらない」場面は残ります。
どれだけ丁寧に説明しても、
どれだけ意図を言語化しても、
相手の受け取り方が、完全に自分と一致することはありません。
それは、能力や姿勢の問題ではなく、
人それぞれが持っている経験や価値観、判断基準が違うからです。
同じ言葉を使っていても、頭の中で描くイメージは必ずズレます。
以前の自分は、
「うまく伝えられれば、ズレはなくなるはずだ」
そう思っていました。
けれど今は、
ズレが起きること自体が前提なのだと考えています。
大事なのは、ズレをなくすことではありません。
ズレが起きたときに、
それを早く見つけ、早く修正できる関係を作ることです。
最初の指示ですべてが決まる、という考え方を手放してから、
やり取りはずっと楽になりました。
「一度で完璧に伝えなければならない」というプレッシャーも減ったと思います。
今は、指示を出すことを
“完成させる行為”ではなく、
“すり合わせを始める行為”だと捉えています。
そう考えるようになってから、
ズレが起きても、必要以上に焦らなくなりました。
修正や確認も、失敗ではなく、自然なプロセスとして受け止められるようになったのです。
完璧に伝わることは、きっとありません。
それでも、ズレを前提に向き合い続けることで、
仕事は少しずつ、噛み合っていくのだと思います。
今、同じように悩んでいる人へ
もし今、
「ちゃんと指示しているはずなのに、なぜか伝わらない」
「何度説明しても、噛み合わない」
そんな違和感を抱えているなら、まず知ってほしいことがあります。
それは、その悩み自体が、決して特別なものではないということです。
マネジメントを任された人の多くが、
一度は必ず、この壁にぶつかります。
自分なりに考え、工夫し、責任を持って向き合っているからこそ、
余計に苦しくなる場面でもあります。
「自分の伝え方が下手なのではないか」
「マネージャーに向いていないのではないか」
そう思ってしまうこともあるかもしれません。
けれど、そこで自分を過度に責める必要はありません。
多くの場合、問題は能力ではなく、
まだ経験していない“役割の切り替え”にあるからです。
伝わらない経験は、失敗ではありません。
マネジメントを学び始めたサインだと思っていい。
自分の前提を疑い、
相手の立場を想像し、
ズレを修正しながら関係を作っていく。
その過程そのものが、マネジメントなのだと思います。
すぐにうまくいかなくても構いません。
完璧に伝えようとしなくていい。
一度で分かってもらおうとしなくていい。
「噛み合っていないかもしれない」と気づけていること自体が、
すでに一歩前に進んでいる証拠です。
この記事で書いた経験が、
今まさに悩んでいる誰かにとって、
「自分だけじゃなかった」と思える材料になれば、うれしく思います。
まとめ|「伝える」より「揃える」ことが大事だった
指示したのに伝わらなかった経験を振り返ってみて、
今ははっきりと分かります。
問題は、伝え方が下手だったことでも、
説明が足りなかったことでもありませんでした。
足りなかったのは、
同じ前提に立ち、同じ方向を見るためのすり合わせだったのだと思います。
自分の頭の中にある完成形や判断基準は、
言葉にしなければ、相手には見えません。
「言わなくても分かるだろう」という期待は、
多くの場合、ズレを生む原因になります。
伝えることは、一方通行では終わりません。
相手がどう受け取り、どう動こうとしているのかを確認し、
必要なら何度でもすり合わせていく。
そのプロセスこそが、指示の本質だったのだと思います。
完璧に伝わることは、きっとありません。
けれど、前提を揃え続ける姿勢があれば、
大きなズレは防げるようになります。
「ちゃんと伝えているのに、うまくいかない」
そう感じたときこそ、
伝え方を磨く前に、前提が揃っているかを見直してみてください。
その視点を持てただけで、
マネジメントの景色は、少し変わって見えるはずです。

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