転職先選びで苦労した友人がいる。
自分より経験年数が長く、技術力も明らかに上の人だ。その人が、やりたい技術分野で働けることを最優先にして転職した。
結果は、うまくいかなかった。
労働環境が悪く、仕事量は増えたのに収入は上がらない。年収を補うために始めた副業も、未払いのまま相手先が倒産した。
技術的な興味を軸に選んだ判断が、なぜここまで裏目に出たのか。本人から話を聞く中で見えてきたことを書く。
「やりたい技術ができる会社」を選んだ
その友人は、技術志向の強い人だった。
新しい技術への関心が高く、業務外でも手を動かしている。技術的な議論になると、自分では追いつけないレベルの話をする。純粋にエンジニアリングが好きな人だった。
転職を考えたとき、その人が最優先にしたのは興味のある技術分野で仕事ができるかどうかだった。
これ自体は、何もおかしくない。技術が好きな人が、好きな技術を扱える環境を求める。むしろ健全な動機だと思う。
問題は、それ以外をほとんど見ていなかったことだった。
労働時間がどうなっているか。評価制度はどうなっているか。昇給の仕組みはあるか。離職率はどうか。そういった部分の確認が、技術的な魅力の前で後回しになっていた。
入ってからわかったこと
実際に働き始めてから、状況が見えてきた。
労働環境が良くなかった。 具体的な内容は伏せるが、長時間労働が常態化している職場だった。技術的に面白い仕事ではあったが、その対価として投入する時間が大きすぎた。
仕事量だけが増えていった。 技術力が高い人なので、入社後すぐに戦力として扱われた。できる人に仕事が集まる構造の中で、担当範囲がどんどん広がった。
それなのに、収入は上がらなかった。 ここが一番きつい部分だ。評価制度が機能していないのか、原資がないのか。理由はともかく、仕事量に見合った報酬にはならなかった。
やりたい技術はできていた。 皮肉な話だが、転職の目的自体は達成されていた。興味のある領域に関われてはいた。
ただ、それ以外のすべてが犠牲になっていた。
副業にも恵まれなかった
収入が上がらない状況を補うため、その人は副業を始めた。
技術力があるので、開発案件を受けること自体はできた。本業の収入不足を、副業で埋めるという判断だった。
ところが、その副業先が給料未払いのまま倒産した。
働いた分の報酬が支払われないまま、相手の会社がなくなる。回収の手段も限られる。時間と労力を投入した結果が、ゼロになった。
本業で消耗し、その補填のための副業でも損失を被る。この時期の話を聞いたときは、さすがに言葉が出なかった。
技術力は高いのに、環境に恵まれない。実力と結果が、ここまで乖離することがあるのかと思った。
何が判断を誤らせたのか
この事例から見えてくるものを整理する。
技術的な魅力が、他の情報を見えなくする
「この技術が使える」という条件は、技術志向の人にとって強烈に魅力的だ。その魅力が大きいほど、他の条件への注意が薄れる。
恋愛で言う「あばたもえくぼ」に近い。良い面が見えると、悪い面を見ようとしなくなる。
技術力が高いことが、逆にリスクになる場合がある
能力の高い人は、入社後すぐに頼られる。それ自体は良いことだが、評価制度が整っていない会社では、仕事だけが増えて報酬が追いつかないという状況が起きる。
能力が低ければ、そもそも多くを任されない。能力が高いからこそ、搾取される構造にはまりやすい。
副業は本業の問題を解決しない
収入不足を副業で補うという判断は、合理的に見える。ただ、本業の環境が悪いまま副業を足すと、総労働時間が増えるだけになる。
根本的な問題は本業の側にある。そこを変えないまま副業で埋めようとすると、消耗が加速する。
その後、環境を変えた
この友人は、最終的に転職した。
地方に引っ越し、東京の会社にリモートで勤務するという形を選んだ。
この選択は、よく考えられていると思う。
生活コストが下がる。 東京の家賃と地方の家賃では、固定費が大きく違う。同じ年収でも、手元に残る金額が変わる。
収入は東京水準を維持できる。 リモート勤務なら、企業の所在地の給与水準で働ける。地方企業に転職すると年収が下がることが多いが、この形ならそれを回避できる。
生活の質が上がる。 通勤がなくなり、住環境も改善される。
今回は「技術的な魅力」だけでなく、働き方と生活全体を含めて判断したということだと思う。一度失敗した経験が、次の判断の精度を上げた形だ。
技術志向の人が転職するときに確認したいこと
この事例を踏まえて、整理しておく。
技術以外の条件も必ず確認する
労働時間の実態、評価制度の仕組み、昇給の実績、離職率。面接で聞きにくいと感じるかもしれないが、聞かずに入って後悔する方が大きい。
「平均的な残業時間はどのくらいですか」「評価はどういう基準で決まりますか」この2つは最低限確認したい。
「できる人に仕事が集まる」構造になっていないか見る
少人数で回している組織、属人化が進んでいる組織では、能力が高い人に負荷が集中しやすい。入社後に自分がその位置に立たされる可能性を考えておく。
やりたい技術は、他の会社でもできないか考える
その技術を扱える会社は、本当にそこだけなのか。他に選択肢があるなら、条件を比較できる。一社に絞ると、冷静な判断がしにくくなる。
働き方全体で見る
技術、収入、労働時間、勤務地、生活。これらは独立していない。どれかを最適化すると、どれかが犠牲になる。全体のバランスで判断する必要がある。
よくある疑問への回答
Q. やりたい技術を優先するのは間違いですか?
間違いではない。技術的な興味は、長く働き続けるうえで重要な要素だ。問題は、それだけで判断することだ。技術の魅力と、働く環境の条件を両方確認したうえで決めれば、後悔は減る。
Q. 入社前に労働環境を正確に知る方法はありますか?
完全に知ることは難しいが、精度を上げる方法はある。面接で具体的に質問する、口コミサイトを複数確認する、可能ならその会社で働いている人に話を聞く。回答が曖昧だったり、聞きにくい雰囲気を出される場合は、それ自体がシグナルになる。
Q. 転職してハズレだったとき、すぐ辞めるべきですか?
状況による。改善の見込みがあるなら、しばらく様子を見る選択もある。ただ、心身に影響が出ている場合や、構造的に変わらないと判断できる場合は、早く動く方がいい。短期離職の経歴より、消耗し続けることの方がリスクが大きい。
まとめ
技術力の高い友人が、やりたい技術を優先して転職した。結果は、労働環境が悪く、仕事量が増え、収入は上がらなかった。副業でも未払いに遭った。
技術的な興味を軸にすること自体は間違っていない。問題は、それ以外の条件を確認しなかったことだった。
その後、地方移住とリモート勤務という形で環境を立て直している。失敗の経験が、次の判断を変えた。
転職では、技術・収入・労働時間・生活のすべてが連動する。どれか一つだけを見て決めると、残りが犠牲になる。この友人の話は、それを思い出させてくれる事例だった。

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