SIerに転職した頃、「この会社で定年まで働けるかもしれない」と思っていた。
大手企業だった。待遇も悪くなかった。上流工程の経験も積めた。SESにいた頃の閉塞感が解消されて「ここで長く働いていけばいい」という安心感があった。
でも、ある出来事をきっかけに、その考えが危険だと気づいた。市場価値を確認したとき「一つの会社に依存し続けることのリスク」が、リアルに見えてきた。
「定年まで同じ会社にいよう」と思っていた頃
SIerに入社した当初は、環境の変化に充実感があった。
SESにいた頃は、年収の限界とキャリアの不透明感で閉塞感を感じていた。SIerに移って上流工程に関われるようになり、マネジメントの経験も積めるようになった。年収も上がった。「ようやく安定した環境に来られた」という感覚があった。
大手企業という安心感もあった。倒産リスクが低い。福利厚生が整っている。社内での昇進というキャリアパスが見えている。「ここで長く働いていけば、定年まで安泰だ」という考えが、自然と頭の中に生まれていた。
周囲にも、同じような感覚を持っている同僚が多かった。「この会社で頑張っていけばいい」という空気が、職場全体に漂っていた。その空気に自分も染まっていた。
この「定年まで同じ会社にいよう」という感覚が、キャリアにとって危険な発想だと気づいたのは、もう少し後のことだった。
市場価値を確認して気づいたこと:スカウトサービスで見えた現実
転機になったのは、スカウトサービスに登録して自分の市場価値を確認したときだ。
転職するつもりはなかった。ただ「自分は今どのくらいの価値があるのか」を把握しておきたいという気持ちで、キャリア経歴書を更新してスカウトサービスに登録してみた。
しばらくすると、いくつかのスカウトが届いた。提示された年収や求人の内容を見て、気づいたことがあった。
「SIerで積んできた経験は、外の市場でも評価される」という事実と「でも、このまま同じ会社にいると、市場価値が止まってしまうかもしれない」という不安が、同時に生まれた。
SIerという大きな組織にいると、会社のブランドや仕組みに守られている部分がある。でも、その会社を離れたとき、自分個人の市場価値はどうなのか。「もし会社がなくなったら、自分はどうなるのか」という問いが頭に浮かんだ。
一社依存の3つのリスク
「定年までこの会社にいよう」という考えの何が危険なのか。自分なりに整理すると3つのリスクがある。
①会社の都合で状況が変わるリスク
どれだけ大手であっても、事業環境の変化、業績の悪化、M&Aや組織再編は起こりうる。「自分は頑張ってきたから大丈夫」という思い込みは、会社の都合の前では通用しないことがある。近年は大手企業でも早期退職募集やリストラが珍しくない。同世代のエンジニアがポジションを失う場面を、複数回目にしてきた。
②市場価値が止まるリスク
一つの会社に長くいると、その会社の文化や仕組みに最適化された人間になっていく。会社の外に出たとき「この会社でしか通用しないスキル」しか持っていないという状況になりやすい。定年間際に会社の状況が変わったとき、外で戦える武器がないというのは最も避けたいシナリオだ。
③精神的な依存が生まれるリスク
「会社があれば安心」という感覚が強くなると、会社の方針に疑問を感じても動けなくなる。「辞めたら生活がどうなるかわからない」という恐怖が、自分のキャリアを自分でコントロールする力を奪っていく。
一社依存に気づいた後に変えた行動
一社依存のリスクに気づいてから、具体的に3つのことを変えた。
①キャリア経歴書を定期的に更新する習慣を作った
転職するかどうかに関わらず、自分のスキルと経験を常に言語化しておく。更新するたびに「この3ヶ月で何が増えたか」を確認する。何も追記できない期間があれば、それはキャリアが止まっているサインだと捉えるようにした。
②スカウトサービスへの登録を続けた
届くスカウトの内容や提示年収を見ることで、自分の市場価値を定期的に把握できる。転職活動をしているわけではないが「いつでも動ける状態」を維持しておくことが、精神的な安定につながった。
③会社の外でも通用するスキルを意識的に積むようにした
「この会社でしか役に立たない経験」より「どこでも通用する経験」を優先して選ぶようになった。案件の選び方、スキルの磨き方、学習の方向性。これらを「市場価値が上がるかどうか」という基準で考えるようになった。
「安定」の定義を変えた
「定年までこの会社にいよう」という考えを捨てた後、「安定」に対する考え方が変わった。
以前は「安定 = 同じ会社に長くいること」だと思っていた。今は「安定 = どこに行っても通用する市場価値を持ち続けること」だと思っている。
一つの会社に依存する安定は、会社の状況が変われば一瞬で崩れる。でも市場価値という安定は、自分が積み上げたものだから、会社の状況に左右されない。
会社に守ってもらうのではなく、自分の市場価値で自分を守る。これが本当の意味での安定だ。
40代になって、この考え方の転換が自分のキャリアの土台になっている。
エンジニアが市場価値を高め続けるための方法
「定年まで同じ会社」という発想を捨てた後、市場価値を高め続けるために実践していることを整理する。
まず「今の会社でしか通用しないスキル」か「どこでも通用するスキル」かを常に意識する。社内ツールの操作や社内独自の手順書知識は前者だ。汎用的な技術スキル、プロジェクト管理能力、業界をまたがって使えるビジネス知識は後者だ。
次に、定期的に外の市場と自分を比較する。スカウトサービス、転職エージェントとの面談、業界勉強会への参加。外の空気に触れることで「今の自分はどのくらいの価値があるか」が見えてくる。
最後に「いつでも動ける状態」を維持する。これは転職の準備ではなく、選択肢を持っておくための習慣だ。選択肢があることで、今の仕事に対しても余裕を持って向き合える。
よくある疑問への回答
Q. 大手企業にいれば本当に安泰ではないのですか?
大手企業であっても事業環境の変化は起こりうる。近年、大手でも早期退職募集やリストラが増えている。「大手だから安心」という前提は、以前より成り立ちにくくなっている。大手にいながら市場価値も高め続けることが、最も安全な状態だと思う。
Q. 市場価値を高めるために何をすればいいですか?
まずキャリア経歴書を更新して、スカウトサービスに登録することをすすめる。外からの評価を定期的に確認することで、自分の現在地がわかる。その上で「今の会社でしか通用しないスキル」より「どこでも通用するスキル」を意識して積み上げていくことが大切だ。
Q. 転職を繰り返すことが正解ですか?
転職が目的ではない。市場価値を高め続けることが目的だ。今の会社でそれが実現できているなら、転職する必要はない。ただ「この会社でしか生きていけない」という状態になることは避けた方がいい。
まとめ:「定年まで同じ会社」は戦略ではなく思考停止かもしれない
SIer時代「この会社で定年まで働ければいい」と思っていた。その考えが危険だと気づかせてくれたのは、市場価値を確認したときだった。
会社に依存することの安心感は、会社の状況が変われば一瞬で崩れる。本当の安定は、市場価値という自分の武器を持ち続けることだ。
「定年まで同じ会社にいよう」という考えは、戦略ではなく思考停止かもしれない。自分のキャリアを自分でコントロールし続けることが、長く働き続けるための唯一の方法だと思っている。


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