これまで20近くの開発現場を渡り歩いてきた。
その中には、自分よりはるかに優秀な人が何人もいた。技術力があり、経験年数も長く、現場で頼りにされている。当時の自分が何度も助けられた人たちだ。
10年以上経って、その何人かと再会する機会があった。
社内での役職は上がっていた。責任範囲も広がっていた。ただ、収入はほとんど変わっていなかった。
一方で、彼らより経験が浅く、技術力も突出していない自分や昔の同僚は、転職を重ねた結果、彼らを大きく上回る年収になっていた。
この差は何だったのか。20年働いてきて、ようやく言語化できるようになった。
実力と収入は、想像以上に連動しない
最初に断っておくと、彼らの実力は本物だ。
技術的な判断が早く、複雑な問題を整理する力があり、チームからの信頼も厚かった。当時の自分から見れば、明確に格上の存在だった。今でもその評価は変わらない。
その人たちの収入が伸びていない。一方で、自分は年収400万円台から900万円近くまで上げている。
この事実は、実力が収入を決めるという前提が成り立たないことを示している。
もちろん、実力がまったく関係ないわけではない。ただ、実力は「必要条件」ではあっても「十分条件」ではなかった。実力があっても、それが収入に変換される場所にいなければ、数字は動かない。
役職は上がるのに、収入が上がらない構造
再会した彼らに共通していたのは、同じ会社に長く在籍していたことだった。
社内で評価され、リーダーになり、マネージャーになる。任される範囲は確実に広がっている。ただ、給与テーブルの中で動いているかぎり、上がり幅には限界がある。
日本の多くの企業では、昇給は年に数%の範囲に収まる。役職手当がついても、数万円単位だ。10年かけて積み上げても、転職1回の変動幅に届かないことは珍しくない。
責任だけが増えて、報酬が追いつかない。 これが、社内で評価され続けた人に起きやすい現象だ。
皮肉な話だが、優秀で信頼されている人ほど、その会社にとって手放したくない人材になる。結果として、社内での役割は増える。でも給与制度そのものは変わらないから、数字は動かない。
経験年数が評価されない3つの理由
「10年やっているから価値が高い」とは限らない。転職市場で年数がそのまま評価されない理由を整理する。
①同じ経験の繰り返しは1年と変わらない
10年同じ現場で同じような仕事をしていた人と、5年で3つの異なる環境を経験した人では、後者の方が評価されることがある。年数ではなく、中身の多様性が見られる。
「10年の経験」が「1年の経験を10回繰り返した」状態になっていると、スキルシートに書ける内容が増えない。年数だけが伸びていく。
②その会社でしか通用しないスキルが蓄積される
長く同じ会社にいると、社内ツールの使い方、独自の業務フロー、社内の人間関係といった、外に出ると価値がない知識が増えていく。
社内では「この人がいないと回らない」状態になる。でも転職市場では、その経験を評価する基準が存在しない。
③市場に出ないと、自分の価値がわからない
これが一番大きいかもしれない。社内での評価と、市場での評価は別物だ。でも社内にいるかぎり、社内の評価しか見えない。
自分の市場価値を知らないまま、社内の評価だけを頼りに働き続ける。だから「本当はもっともらえるはずだ」という発想自体が生まれない。
経験が浅くても年収を上げた人の共通点
逆に、自分や昔の同僚が年収を上げられた理由を考えると、共通点は一つしかない。
環境を変えたこと。 それだけだ。
自分はSESからSIer、SIerから外資系コンサルと2回転職した。そのたびに年収が100〜200万円上がっている。技術力が急に伸びたわけではない。同じスキルセットのまま、場所を変えただけだ。
昔の同僚も同様だった。特別な資格を取ったわけでも、突出した技術を身につけたわけでもない。評価基準の違う場所に移ったというだけで、数字が変わった。
ここで重要なのは、転職が偉いという話ではないということだ。
転職はあくまで手段だ。本質は「自分の実力が正しく値付けされる場所にいるかどうか」であり、今の会社でそれが実現しているなら動く必要はない。問題は、実力と報酬が乖離していることに気づかないまま何年も過ごすことだ。
年数ではなく何が評価されるのか
では、市場で評価されるのは何なのか。転職活動と採用の両側を見てきた経験から言うと、次の3つだ。
具体的に何をやったか
「10年の開発経験」より「この規模のプロジェクトで、この技術を使い、この課題をこう解決した」の方が伝わる。年数は箱であって、中身ではない。
どこでも通用する経験か
特定企業の独自環境ではなく、一般的な技術・手法での経験かどうか。汎用性があるほど、評価する企業の幅が広がる。
再現性があるか
たまたまうまくいったのか、同じことを別の環境でもできるのか。ここが説明できる人は強い。
気づいたときにできること
もし今、「年数は重ねているが評価されている実感がない」と感じているなら、確認してほしいことがある。
直近3年でスキルシートに追記できたことがあるか。
新しい技術、新しい役割、新しい規模の案件。何も追記できないなら、それは年数だけが伸びている状態かもしれない。
自分の市場価値を確認したことがあるか。
スカウトサービスに職務経歴書を登録するだけで、どんな企業からどのくらいの年収でオファーが来るかがわかる。転職を決める必要はない。現在地を知るだけでいい。
自分がSESに6年以上いたのは、この確認をしなかったからだ。社内の評価だけを見ていて、外の基準を知らなかった。知っていれば、もっと早く動いていたと思う。
よくある疑問への回答
Q. 同じ会社に長くいると必ず不利になりますか?
そうとは限らない。成長できる環境で、評価が報酬に反映される会社なら、長く在籍することに問題はない。問題なのは「実力に対して報酬が低い状態」が続いているのに、それに気づいていないケースだ。
Q. 技術力を磨けば年収は上がりますか?
上がる場合もあるが、それは「技術力が評価される環境にいる」ことが前提だ。給与テーブルが固定されている会社では、どれだけ技術を磨いても上がり幅は限定される。技術を磨くことと、それが評価される場所を選ぶことは、両方必要になる。
Q. 転職しないと年収は上げられませんか?
社内での昇進や評価制度の活用でも上げられる。ただし上がり幅は制度の範囲内に収まる。大幅に変えたいなら、転職が最も確実な手段になるのは事実だ。
まとめ
20の現場で出会った、自分より優秀な人たち。10年後、役職は上がっていたが収入は変わっていなかった。
一方で、彼らより経験も実力も劣る自分が、転職によって年収を上回った。
この差は実力ではなく、いる場所の構造だった。
経験年数は、それ自体では市場価値にならない。中身が多様で、どこでも通用して、説明できる形になっていて初めて価値になる。
今、年数だけが伸びている感覚があるなら、一度外の基準で自分を測ってみてほしい。動くかどうかは、その後で決めればいい。

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