SES企業に入社して、最初にやったことは「待機」だった。
現場にアサインされるまでの間、自社で待つ期間だ。エンジニアとして働き始めたという実感があるかというと、まったくなかった。毎日会社に行って、特にやることもなく時間が過ぎていく。
「エンジニアになれた」という喜びと、「これが本当に仕事なのか」という違和感が、同時にあった。待機期間は約1ヶ月。
この記事では、その1ヶ月の実態に加えて、待機中の給料はどうなるのか、待機が長引いたときにどう判断すべきか、待機が多い会社をどう見分けるかまで、まとめて書く。今まさに待機中で不安を感じている人にも役立つ内容にしたつもりだ。
SESの「待機期間」とは何か|入社してすぐ現場に出られない理由
SES企業に入社したことがない人には、「待機」という概念が馴染みにくいかもしれない。
SESのビジネスモデルは、エンジニアをクライアント企業に常駐させて、その稼働に対して報酬をもらう仕組みだ。つまり、エンジニアが現場に入っていない期間は、会社として売上が立たない。
新しく入社したエンジニアは、すぐに現場にアサインされるとは限らない。会社の営業が案件を探している間、社内で待つ期間が発生することがある。これが「待機期間」だ。
待機中は、基本的に会社に来るか自宅待機になる。現場での仕事はないから、やることが決まっていない。会社から「これをやっておいて」と指示が出ることもあれば、完全に自己管理に任される会社もある。
未経験で入社した自分にとって、待機期間は完全に想定外の経験だった。「入社したらすぐに現場で仕事が始まる」と思っていたから、最初の数日は戸惑いしかなかった。
待機期間はどのくらい続くのが普通か
待機期間の長さは、会社の営業力、本人のスキル、時期によって大きく変わる。目安として、次のように考えるとわかりやすい。
数日〜2週間程度は、ごく一般的な範囲だ。案件の切り替わりや、契約手続きの調整で発生する。まったく心配する必要はない。
1ヶ月前後も、未経験や経験の浅いエンジニアであれば珍しくない。自分の場合もこの範囲だった。アサインできる案件が限られるため、営業が探す時間がかかる。
2〜3ヶ月になると、少し様子が変わってくる。本人のスキルと案件のミスマッチが起きているか、会社側の営業力に課題があるか、業界全体の需要が落ち込んでいるか。いずれかの要因を疑ってよい段階だ。
半年〜1年まで続くようなら、これは明確に異常な状態だ。その会社に居続けること自体がキャリアのリスクになる。理由は後述するが、この段階では転職を含めた選択肢を真剣に検討すべきだと考えている。
なお、案件が集中する時期(4月、10月など期の変わり目)の前後は、待機が発生しやすい傾向がある。逆にこの時期を過ぎると案件が動きやすくなることもあるため、「今が特に動きにくい時期なのか」を営業に確認してみるのも一つの手だ。
待機中の給料はどうなるのか
待機期間について、最も不安に感じるのがお金の問題だと思う。ここは正確に理解しておいた方がいい。
原則として、待機中も給与は支払われる。 SESのエンジニアは、あくまでSES企業の社員だ。現場に出ていなくても雇用関係は続いているため、賃金の支払い義務がなくなるわけではない。
ただし、実態としては次のようなケースがある。
基本給は支払われるが、手当が減る。 現場手当、残業代、プロジェクト手当などが待機中はつかないため、月の手取りが普段より少なくなることがある。これは多くの会社で起こる。
自宅待機を命じられた場合。 会社の都合による休業にあたる場合、労働基準法では平均賃金の一定割合以上の休業手当を支払うことが定められている。ただし、待機の扱いが「休業」にあたるのか「自宅での自己研鑽を含む勤務」にあたるのかは、実際の運用によって解釈が分かれる。
待機が続くと減給を示唆される。 一部の会社では、待機が長引くと給与の見直しに言及されることがある。
自分は法律の専門家ではないので断定はできないが、待機中の給与について明らかに不当だと感じる扱いを受けた場合は、労働基準監督署や労働相談窓口に相談することができる。無料で相談できる窓口が各都道府県に設置されている。入社前であれば、「待機期間中の給与はどうなりますか」と面接時に確認しておくのが最も確実だ。
待機期間のリアルな実態:1ヶ月間で感じたこと
入社して最初の数日、何をすればいいかわからなかった。
会社には来る。でも決まった業務がない。先輩エンジニアたちは現場に出ているから、社内にいる人が少ない。「何かやることありますか?」と聞いても「自習しておいて」という返答が多かった。
最初の1週間くらいは、会社から渡された参考書を眺めていた。でも目的意識がないまま読んでいても、なかなか頭に入らない。「これで本当にいいのか」という焦りがあった。
給料はもらえる。でも働いている実感がない。100社以上応募して、無職のまま卒業して、やっと入社できたのに、現場に出られない。そのギャップが、最初の頃はきつかった。
一番こたえたのは、周囲との比較だった。同期が先に現場に出ていくのを見ると、「自分は必要とされていないんじゃないか」という気持ちになる。実際には営業の都合やタイミングの問題でしかないのだが、当時はそう受け取れなかった。
SES企業によって、待機期間の扱いは様々だ。研修プログラムが用意されている会社もあれば、完全に自己管理に任せる会社もある。自分の会社は後者に近かった。「研修なし、とにかく自分で学んで待て」というスタイルだった。
待機期間中にやったこと:目的意識を持つまでの試行錯誤
最初の数日間の戸惑いが過ぎてから、「この時間を使って何ができるか」を考えるようにした。
現場に出た後に必要になりそうなスキルを、自分で調べて学ぶことにした。具体的には、プログラミングの基礎的な練習、データベースの操作、ネットワークの基礎知識。専門学校で学んだ内容を復習しながら、実際に手を動かすことを意識した。
技術書を読むだけでなく、実際にコードを書いてみることも意識した。「読んでわかる」と「書いてわかる」は違う。手を動かすことで、理解が深まる部分があった。
また、IT業界のことを調べる時間にもした。SESという働き方の仕組み、業界の構造、エンジニアのキャリアパス。入社前にはよくわかっていなかったことを、改めて調べた。この時期に業界のことを理解したことが、その後のキャリアを考える上で役立った。
正直に言うと、全部が有意義だったわけではない。目的意識のない勉強はなかなか続かない。ダラダラしてしまった時間もあった。目的意識を持って学ぶことの難しさを、この時期に実感した。
待機期間を有効に使うための4つのポイント
同じような待機期間に入る人に向けて、自分の経験から「有効に使うための方法」を整理する。
①現場で使われる技術を先回りして学ぶ
まず自社の営業がどんな案件を取ってくることが多いか、どんなスキルが求められているかを確認する。その上で需要の高い技術を優先的に学ぶことで、アサインされる確率が上がる可能性がある。「何を学べばいいかわからない」という状態を減らすために、情報収集から始めるのが効果的だ。
②手を動かすことを意識する
技術書を読むだけでなく、実際にコードを書いてみることが大切だ。簡単なものでいいので、「動くものを作る」という経験を積んでおく。後に現場に出たとき「手を動かす習慣」が身についているかどうかで、序盤の適応速度が変わる。
③SESと業界の仕組みを理解する
待機期間は、「SESってどういう仕組みなのか」「エンジニアのキャリアはどう設計するのか」を調べる良い機会だ。現場に出てしまうと忙しくなり、業界全体を俯瞰して考える時間がなくなる。今のうちにキャリアの全体像を頭に入れておくことが、長期的な判断に役立つ。
④社内の先輩に話を聞く
現場に出ている先輩エンジニアが社内に戻ってくる機会があれば、積極的に話を聞いてみることをすすめる。「現場はどんな雰囲気か」「入ってから役立ったスキルは何か」「最初の頃に困ったことは何か」。こういった話は、求人票や技術書では絶対に得られない情報だ。
待機が長引くときに確認したいこと
待機が2ヶ月、3ヶ月と続くようなら、ただ待つのではなく状況を確認しに行った方がいい。順番に整理する。
①営業に具体的な状況を聞く
「今どのくらい案件を提案してもらっているか」「見送りになった理由は何か」を具体的に聞く。ここで曖昧な返答しか返ってこない場合、そもそも提案自体が動いていない可能性がある。
②見送り理由から自分の課題を特定する
「スキル不足で見送り」なのか「単価が合わない」なのか「そもそも提案していない」なのかで、打つべき手はまったく違う。スキルが理由なら学習の方向性が定まるし、提案自体が少ないなら会社側の問題だ。
③改善のための行動を具体的に決める
不足しているスキルがわかったら、資格取得や技術習得で埋める。そして「この技術を身につけたので提案してほしい」と自分から働きかける。受け身で待っているだけの状態から抜け出すことが大事だ。
④それでも動かないなら、転職を選択肢に入れる
半年以上待機が続く、あるいは改善の見通しが立たない場合、その会社に居続けること自体がキャリアの機会損失になる。待機期間は職務経歴書に書ける実績にならないからだ。1年待機した人と1年現場で働いた人では、転職市場での評価がまったく違ってしまう。
自分はSESに6年以上いて、動くのが遅すぎたと今でも思っている。状況が変わる見込みがないなら、早めに環境を変える判断をした方がいい。
待機が多い会社の特徴と、入社前の見分け方
そもそも待機が発生しにくい会社を選ぶことができれば、この問題の多くは避けられる。入社前に確認できるポイントを挙げる。
待機が多い会社に見られやすい特徴
営業担当者の数がエンジニアに対して極端に少ない。取引しているクライアントの数が限られている。二次請け・三次請けが中心で、上流の元請けとの直接取引がない。未経験者を大量採用しているが、教育体制が整っていない。
面接で確認したい質問
「入社してから最初の現場に出るまで、平均でどのくらいかかりますか」と直接聞くのが最も早い。あわせて「待機期間中の給与はどうなりますか」「待機中は研修がありますか」も確認しておきたい。
これらの質問に対して、具体的な数字で答えてくれる会社は、実態を把握して管理できている可能性が高い。逆に「人によりますね」「すぐ決まりますよ」と曖昧にかわされる場合は、少し慎重になった方がいい。
求人票で見るポイント
「未経験歓迎」を強く打ち出しながら、具体的な案件例や技術スタックの記載がない求人は、採用してから案件を探すスタイルの可能性がある。逆に「こういう案件があります」と具体的に書かれている会社は、案件が先にあって人を採用している。
待機期間後、現場に出てから気づいたこと
1ヶ月程度の待機の後、最初の現場にアサインされた。
待機期間中に自習で学んだことが、すぐに役立ったかというと、必ずしもそうではなかった。現場で求められることと、自分が学んだことの間にはギャップがあった。
ただ「手を動かして学ぶ習慣」は現場に出てからも続いた。わからないことがあれば調べる、試してみる、理解する。待機期間中に身についた学習のスタンスが、その後の成長を支えてくれた。
また、SESの仕組みを理解していたことで「この会社でずっとやっていくのではなく、経験を積んでステップアップする」という意識を持ちながら働けた。それが6年後の転職決断につながっていたと思う。
よくある疑問への回答
Q. SESに入社したら必ず待機期間がありますか?
会社と時期によって異なる。入社直後に待機になる場合もあれば、研修を経てすぐ現場に出る場合もある。入社前に「アサインまでどのくらいかかるか」「研修はあるか」を確認しておくといい。
Q. 待機期間中も給料はもらえますか?
雇用関係が続いている以上、原則として給与は支払われる。ただし現場手当や残業代がつかないため、手取りが普段より減ることは多い。自宅待機を命じられた場合の扱いなど、疑問があれば入社前に確認するか、労働基準監督署などの相談窓口を利用することもできる。
Q. 待機が長いとクビになりますか?
待機を理由に即座に解雇されるケースは一般的ではない。日本の法律では解雇に厳格な要件が求められるためだ。ただし、退職を促されたり、給与見直しの話が出たりすることはある。何より問題なのは、待機期間が長引くこと自体がキャリアの空白になってしまうことだ。
Q. 待機が1年近く続いています。どうすればいいですか?
その状況は、会社側の営業力または案件供給に構造的な問題がある可能性が高い。まず営業に状況を具体的に確認し、改善の見通しを聞く。見通しが立たないなら、転職エージェントに登録して外の市場を見てみることをすすめる。待機期間は職務経歴書に書けないため、長引くほど転職も不利になる。動くなら早い方がいい。
Q. 待機中に何を勉強すればいいかわかりません
まず会社の営業に「どんなスキルが求められる案件が多いか」を聞いてみることをすすめる。需要の高い言語や技術を教えてもらえることが多い。それを軸に学習する方向性を決めると、目的意識を持って取り組みやすくなる。
Q. 待機中に転職活動をしてもいいですか?
在職中の転職活動自体は問題ない。むしろ待機中は時間を確保しやすいため、情報収集を始めるには適したタイミングとも言える。転職を決断しなくても、エージェントに登録して自分の市場価値を確認するだけでも、次の判断材料になる。
まとめ:待機期間は「準備の時間」として使い、長引くなら動く
SES入社後の待機期間は、想定外だったし最初は戸惑った。「エンジニアになったのに、仕事をしていない」という感覚が、しばらく続いた。
でも振り返ると、あの1ヶ月は無駄ではなかった。現場に出る前に学習習慣を作れたこと、SESの仕組みを理解したこと、「ここは通過点だ」という意識を持てたこと。これらは、その後のキャリアに影響した。
一方で、待機が長引く場合は話が変わる。数ヶ月を超えて改善の見通しが立たないなら、それは自分の問題ではなく環境の問題である可能性が高い。待機期間はキャリアの実績にならない。長引くほど、次の一手が打ちにくくなる。
短い待機は準備の時間として使う。長い待機は環境を変えるサインとして受け取る。この線引きを持っておくことが、SESでキャリアを積む上で大切だと思っている。


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