SES時代に仲の良かった同期や先輩がいた。
自分が転職を繰り返してキャリアを変えていく中で、彼らはずっと同じ会社に残り続けた。数年に一度、近況を話す機会があるたびに「まだ同じ会社にいるよ」という言葉が返ってきた。
責めているわけではない。転職が正解で、残留が間違いというつもりもない。ただ彼らの話を聞くたびに「動かないことのコスト」を考えずにはいられなかった。
転職しない友人たち:「いつか動こう」と言い続けた数年間
SES時代に知り合った同期や先輩の中に、何人か「転職を考えているけど動けない」という人がいた。
一人は、入社当時から優秀だと思っていた先輩だった。技術力もあって現場での評価も高かった。「いつか転職するつもり」とずっと言っていた。でも数年経っても同じ会社にいた。
「なぜ動かないのか」を聞くと「今の現場が落ち着いているから」「もう少しスキルを上げてから」「タイミングを見計らっている」という答えが返ってきた。理由はそれぞれ違うが、共通していたのは「いつか動こうと思っているが、今ではない」という感覚だ。
もう一人は、自分と同じ時期に入社した同期だった。明るくて人付き合いが上手で、現場でも慕われていた。「転職活動してみようかな」という話を何度か聞いたが、実際には動かなかった。
数年後の近況:動かなかった結果どうなったか
数年後に会ったとき、彼らの近況を聞いた。状況は、あまり変わっていなかった。
先輩は、まだ同じ会社にいた。技術力はあるが、年収はほとんど上がっていないと言っていた。「そろそろ動こうかな」という言葉は、数年前と変わっていなかった。
同期は、仕事への不満を話してくれた。年収が増えない、キャリアが見えない、現場の環境が良くないときもある。でも「今さら転職できるかどうか不安だし」と言っていた。
二人とも不満はあった。でも動けていなかった。
自分が2回の転職を経て年収が大きく上がり、働き方も変わっていたのと対照的だった。同じスタートラインにいたのに、数年後の状況がこれだけ違う。その差を生んだのは「動いたかどうか」だけだったと思う。
転職しないことの3つのリスク:目に見えにくいコストが積み重なる
転職しないという選択には、コストがある。目に見えにくいコストだが、確実に積み重なっていく。
①年収の機会損失
最もわかりやすいコストだ。SESにいる限り、年収の上限が構造的に決まっている。その構造の中に居続けることで、毎年「得られたはずの年収」との差が広がっていく。5年、10年と積み重なると、その差は非常に大きくなる。
友人の先輩の場合、自分との年収差は転職した直後より、5年後の方がはるかに大きくなっていた。「毎年同じ環境にいること」の機会損失は、複利のように積み上がる。
②スキルの停滞
同じ環境に長くいると、新しい技術や業界への接触が限られる。変化の少ない現場が続くと、スキルシートに書けることが増えていかない。転職市場での競争力が、気づかないうちに下がっていく。
「経験年数は増えているのに、スキルシートに書けることが数年前と変わっていない」という状態になると、転職活動で苦労しやすくなる。
③「動けなくなる」という状態
長く同じ環境にいると、「この会社以外でやっていけるか」という不安が強くなる。動こうと思っても「今さら」という気持ちが邪魔をする。その感覚は、年数が経つほど強くなりやすい。
40代・50代になってから「やっぱり転職しようと思うが、動けない」という状況になると、選択肢が大きく狭まる。
なぜエンジニアは転職できないのか:動けない理由のパターン
転職したいと思っているのに動けない。その状況には、いくつかのパターンがある。
「スキルが足りない」という思い込みが最も多い。「もう少し経験を積んでから」「あの資格を取ってから」という先送りだ。自分自身も、SESに6年以上いたのはこのパターンだった。でも実際には動いてみると「思っていたより市場価値があった」と気づくことが多い。自分のスキルを過小評価していることがほとんどだ。
**「今の環境への遠慮」**もある。「現場のメンバーに迷惑をかけたくない」「チームが大変な時期に辞めづらい」という気持ちだ。でも自分のキャリアを犠牲にして会社に貢献し続けることが、本当に正しいのかを考える必要がある。
**「失敗への恐怖」**も大きな要因だ。「転職して環境が悪化したらどうしよう」という不安だ。ただ転職が必ずしも成功するとは限らないが、動かないことにもリスクがある。どちらのリスクが大きいかを冷静に比較することが大切だ。
転職しないことが正解のケースもある
ここまで「動かないことのコスト」を書いてきたが、転職しないことが正解のケースもある。
今の会社で成長できている、キャリアアップの機会がある、働き方に満足している。そういう状況なら無理に転職する必要はない。転職は手段であって目的ではない。
問題なのは「今の環境に不満はあるが、動けない」という状態が長く続くことだ。不満を抱えながら現状維持を続けることは、精神的にも消耗するしキャリア的にも機会を失う。
「転職すべきか」ではなく「今の環境で自分が求めるものが得られているか」を問い直すことが大切だ。得られているなら残留が正解。得られていないなら動くことを考える。
動けない友人への伝えたいこと
彼らに何かアドバイスできるとしたら、一つだけ言いたいことがある。
まず転職エージェントに登録して話を聞いてみてほしい。転職すると決めなくていい。「自分の市場価値がどのくらいか」を知るだけでいい。
スカウトサービスに経歴書を登録して、どんな求人やスカウトが来るかを見るだけでもいい。「思っていたより市場価値があった」と気づくだけで、次のステップを考えるきっかけになる。
動かないまま「いつか」を待ち続けることと、情報収集だけでも始めることは全然違う。後者は何も失わずに選択肢を広げることができる。
よくある疑問への回答
Q. 長年同じ会社にいると転職市場で不利になりますか?
必ずしも不利ではないが「なぜ長く同じ会社にいたか」を説明できることが重要だ。成長できていた、スキルが積み上がっていたという理由なら問題ない。ただ「なんとなく動けなかっただけ」という状況が長く続いていると、スキルシートに書ける内容が薄くなる可能性がある。
Q. 「今さら転職できない」と思っているエンジニアへのアドバイスは?
まずスカウトサービスに登録して、自分の市場価値を確認することをすすめる。「思っていたより評価される」という気づきが、動くきっかけになることが多い。「今さら」という感覚は、実態より悲観的なことが多い。実際に動いてみてから判断しても遅くない。
Q. 転職に踏み切れないとき、最初の一歩は何ですか?
転職エージェントへの登録か、スカウトサービスへの経歴書登録をすすめる。どちらも無料で転職すると決めなくてもいい。「自分の現在地を知る」という目的だけで十分だ。その情報が次の行動の判断材料になる。
まとめ:「いつか動こう」は、動かない理由になりやすい
SES時代の同期や先輩が、年収が増えないまま数年を過ごした。動けない理由はそれぞれあったが、共通していたのは「いつか動こう」という先送りだった。
動かないことにもコストがある。年収の機会損失、スキルの停滞、「動けなくなる」という状態。これらは目に見えにくいが確実に積み重なっていく。
「いつか」を待ち続けるより、まず情報収集だけでも始めてみてほしい。それだけで見える世界が変わることがある。


コメント